#33：漫画の持ちこみ【朝丘 大介】

漫画の持ちこみ

学生時代に小説を書いていた僕は、社会人になってからも諦めきれず、漫画を独学で描いてみることにした。

そのころ流行った『伝染るんです』『コージ苑』のような１ページもののギャグ漫画だ。

ある程度描けた時点で、プロの少女漫画家の漫画教室に持ちこみをした。

漫画は好評で、プロの先生から「面白い。絵は下手でいいから、すぐにでも持ちこみをするように」　と言われた。

持ちこみに際して、漫画教室の先生のアドバイスは、「編集者だって人間だから、面白い、と言う人もいれば、つまらない、と言う人もいる。　できるだけたくさんの出版社をまわりなさい」とのことだった。

漫画雑誌の後ろに書いてある案内で場所を調べ、いくつかの出版社をまわった。

現在、持ちこみを門前払いしている文芸界とは異なり、漫画界は寛容だった。

小説だと読むのに何時間もかかるが、漫画の場合、すぐに読めてしまうからかもしれない。

編集者の反応はさまざまだった。

きちんと意見してくれるところ。辛辣な意見でハナもひっかけないところ。

不思議なことに、大きな出版社ほど様ざまなアドバイスをしてくれ、小さな出版社の編集者ほど不親切だった。

大きな出版社には、人材を育てるだけの余裕がある。そういうことなのだろう。

小学館のビッグコミックの編集者さんからは、「絵は描かなくていいから、100本四コマのネームを描いて持ってきなさい」と言われた。

その四コマ100本に挑んでいる途中、交通事故にあった。

集中力の障がいや注意の障がいでペン先で絵を描くことが面倒くさくなってしまった。

そんなとき、一生に一度か二度しか出ないようなストーリーが、僕の頭上におりてきた。

漫画よりも小説向きの物語だった。

何かに憑かれたように原稿を書いた。天に書かされているという感じだった。

高次脳機能障害があるから、「書いては休み、また書いては休み」ですんなりとはいかなかったが、そうして四年かけて完成したのが『オレンジ病棟』という作品だ。

話が脱線したが、いま考えると、ネームを描いてきなさい、ということは原作者の道があったのではないかと思う。

いずれにしても、僕は学生時代から書いてきた文芸を選んだのだから、文章という媒体で読者を愉しませたい。

©2023 Daisuke Asaoka

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