スポンサーリンク
マプロン 朝丘大介
ぼくが通っていた中学には、飲み物の自販機があった。
売られていたのは、紙パックの牛乳、コーヒー牛乳、フルーツジュース、
それにマプロンという豆乳飲料だ。
どれも六十円くらいの値段だった。
牛乳やコーヒー牛乳、フルーツジュースは、みんなふつうに飲んでいたが、
マプロンを飲むと馬鹿にされるので、みんな警戒して買わなかった。
だが、クラスメートにひとり、マプロンが好きな生徒がいた。
彼がマプロンを飲むと、みんな「げっ。マプロン飲んでるぅ~」とはやし
立てるのだが、その彼は「うるさい!栄養に良いんだぞ!」とひとりで奮闘していた。
では、どうしてマプロンを飲むと馬鹿にされたのか?
当時、豆乳というのはコンビニやスーパーになく、馴染みのない日本人にとって、その味がどこか奇異に感じられたのではないだろうか。
外国人がみそ汁や納豆を飲食するような感覚だ。
幼稚な人間は、自分たちとは異なったマイノリティ、つまり少数派をからかおうとする傾向がある。そういうことなのだろう。
豆乳がこれだけ日本人に普及した現在、あのころ卑しめていた連中も、
いまでは健康のために豆乳を飲んでいるかもしれない。
マプロンを飲む生徒をからかっていたことは〈なかったこと〉にして。

朝丘先生
今回はミニコラムにしました。
©2023 Daisuke Asaoka