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#24:コーヒーおばあちゃん【朝丘 大介】
どこにでもあるファミレス。
ピシャ ピシャ
怪しげな音がする。
見ると、隣席のお婆ちゃんが、テーブルの下で足もとの絨毯 にコーヒーを撒いていたのだ。
僕はこの老婆と何回か遭遇しており、心の中で〈コーヒーおばあちゃん〉と呼んでいた。
今朝もウエイトレスがモーニングセットを運んできた。
「いま、コーヒーをお持ちいたします」
お婆ちゃんはトーストを口に運んでいる。朝食を食べにきているのだ。
コーヒーは注文したいわけではなく、モーニングについてくる。おかわりが自由だ。
ウエイトレスにすすめられたコーヒーを断りきれないお婆ちゃん。おかわりした
コーヒーを、テーブルの下にピシャ、ピシャと撒いている。
すべて撒きおわったあと、カップの中のコーヒーをごぷごぷと飲む 「演技」 をしているのがおかしい。
だが、 非情にも ウエイトレスが またカップに波々と コーヒーを注いでしまう。
そう何度もは絨毯に撒けないのだろう。
隣にいる ぼくの目を気にして、 がんばって コーヒーを飲む お婆ちゃん。
「コーヒーのおかわりは?」
「……お水ください」
なんとか〈おかわり攻撃〉を回避したお婆ちゃんは、実においしそうに氷水を飲んでいた。
良かったね、お婆ちゃん。

朝
このお婆ちゃんがコーヒーを絨毯に撒くショーを、いまでも見たくなることがあります。
©2023 Daisuke Asaoka