#53:アイデアが浮かぶ雰囲気【朝丘 大介】

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アイデアが浮かぶ雰囲気

 

僕の住んでいる街には、ドトールとファストフード店が向かい合っている大通りがある。

 

 


僕の足が向くのは、きまってドトールのほうだ。 メニューが何であるかは関係ない。

 

 


まずファストフードは腹ごしらえするところなので、長居できるムードではない。これは地域にもよるだろうが、僕の住むところではそうだ。 

 

 


店内で流れているBGMにも大差はないと思う。ちなみに昔近所にあったコロラドという喫茶店は、つねに80年代の洋楽がかかっていた。

 

 


が、それだけではない。

 



ファストフード店は店内が明るいが、ドトールは照明が暗めである。 

 

 



ただし、これは心地よいうす暗さだ。

 

 



木製の焦げ茶を基調としたテーブル、椅子、カウンター。薄暗い照明。 全体的にシックなトーンにしている。

 

 



色彩の本を読み、色にも人を落ちつかせる色というのがあることを知った。

 

 



仄かな照明がもたらす坐り心地のよさ。

 

 



ファストフード店が健全な表通りだとしたら、ドトールにはどことなく裏小路を歩いているような心地よさがある。

 

 

 

居心地が良いので、長くとどまっていたくなる。

 

 

 

本を読んだり、原稿を書くのにも集中でき、作業がはかどる。

 

 

 

ところで、ものを考えるのに集中できる環境を整えることは大事だ。

 

 

 

子どものころの僕の部屋は学習デスクや畳の上に物が散乱しており、とても集中して勉強を行える環境ではなかった。

 

 

 

姉は子どもが受験のころ、いつも机の上だけは綺麗にセッティングした。

 

 

 

その努力が実り、姉の息子は見事一流大学に合格した。

 

 

 

昔の子ども番組なら、アイデアがでないと、主人公がブリッジして

 

 

 

「閃いた!」などと言って一件落着だったが、現実ではそうもいかない。

 

 

 

亡くなった父は、ものを考える場所にトイレを選んだ。

 

 

 

ただ、父がトイレで読んだ新聞なんてクサそうで読む気がしなかったので、

 

 

 

新聞を持ちこむ父を煙たく感じていた。

 

 

 

だが、その癖は遺伝して大人になった僕は、職場でアイデアに詰まると、

 

 

 

トイレに籠り、便座に座りながら、スマホに書いておいたアイデアのメモを見て、

 

 

 

うんうんと唸っている。

 

 

 

そうすると、割といいアイデアが閃く。

 

 

 

仕事中、スマホを持って、何度もトイレに行き、気分転換をはかることもある。

 

 

 

さて、アイデアが浮かぶ条件として外せないものがある。

 

 

 

それは適度に体を動かすことだ。

 

 

 

仕事場の昼休み、一時間の休憩がある。

 

 

 

僕はいつも十分で食事を済ませ、残りの五十分は空想に耽りながら街を散歩する。

 

 

 

二・五キロぐらい歩いていると思う。

 

 

 

心を彷徨わせ、歩きながら空を見ている。

 

 

 

僕が通りすぎた人。

 

 

 

僕を通りすぎた人。

 

 

 

様ざまな人を振りかえりながら。

 

 

 

好きだったあの娘は、いま、あの空の下にいるのかなぁ、なんて中学生みたいなことを想ったりしながら。

 

 

 

そうしていると、思わぬアイデアが頭上に下りてきたりする。

 

 

 

『書を捨てよ、町へ出よう』とはよく言ったものだ。

 

 

 

逆に体をまったく動かさないでアイデアを出した例もある。

 

 

 

そのときの僕は部屋の電気を消し、一晩まっ暗な部屋で仰向けになりながら

 

 

 

光る携帯の画面に自分の考えを書いた。

 

 

 

書いては直し、書いては直し、のくり返し。

 

 

 

リラックスした状態で書いたので、自然とアイデアが湧きでたのだ。

 

 

 

このやり方も、歩きながら空想に任せてアイデアを出すやり方も、〈自然体〉がポイントだ。

 

 

 

勉強や仕事をはかどらせるには、ある種の〈条件〉が必須になってくると思う。

 

 

 

最後に、僕も、子どものころ、もっと部屋を片付けておけばよかった。

 

 

 

©2024 Daisuke Asaoka

 

 

 

 

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