#96:あなたの全盛期は何歳のとき?【朝丘 大介】

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あなたの全盛期は何歳のとき?

 

僕は、昔のプロレスファンである友だちと、全盛期のアントニオ猪木とヒクソン・グレイシーが戦ったら? あるいは、全盛期のモハメッド・アリとエメリア・エンコ・ヒョードルが戦ったら? といった話をする。

 

 

 

人は何故強い者に憧れを抱くのか。

 

 

 

永遠のナゾであるが、強い者同士の戦いの観戦はワクワクする。

 

 

 

しかし、猪木の全盛期って、何歳だ? と思ってしまう。

 

 

 

アリと戦ったとき? 当時は瞬発力がすごかったが、技の種類が少なく、晩年に使ったチョークスリーパーもなかった。

 

 

 

プロスポーツ選手の全盛期は、当然体力のある若いときだが、それ以外の分野でも若いときが全盛期の人が多い。

 

 

 

ちなみに僕の全盛期は三歳ごろだった。

 

 

 

当時はおかっぱ頭でだれからも、かわいい、と言われる子どもで、よく女の子と間違われた。

 

 

 

 

 

 

子ども番組に出演しないか、とテレビ局の人から声がかかったほどだ。

 

 

 

誘拐されそうになり、父がゴルフクラブを持って犯人を追いかけていったこともある。

 

 

 

もしも誘拐されていたら〈大介ちゃん事件〉として新聞に載ったかもしれない。

 

 

 

幼少時代が全盛期という意味では、その後、ぱっとせず覚せい剤などに走る人気子役の人生と被っていたかもしれない。

 

 

 

いつまでも、小さいころはかわいかった、とみんなに言われる過去が眩しくもあり、嫌でもあった。

 

 

 

それから小学校五、六年のときは共学だったので、まわりの女の子のことも意識せず、それなりに和気あいあいとやれて、成績は中の上程度だったのに、クラスの人気だけで学級委員長にもなれた。

 

 

 

人生の〈第二全盛期〉だったかもしれない。

 

 

 

だが、中高になると、東大に五十人入る受験校(男子校)の生徒で成績も運動もパッとせず、楽しい思い出がなくなる。

 

 

 

ここではかわいさなどは関係なく、成績、運動だけが価値を持った。

 

 

 

成長するにつれ、かわいくなくなり、かといって、それを埋めるセールスポイントもなく、最悪の人生が続く〈暗黒期〉が始まった。

 

 

 

かわいさという付加価値を除くと、優しいぐらいで、あとは何も残らない少年だったのだ。

 

 

 

成績至上主義の受験校で、優しさなどは尊重されなかった。

 

 

 

かわいがらなくなった親に反抗するようになり、生意気になった。

 

 

 

さらに同級生二人に、駅の柱に顔をぶつけられ、それから長い間、人の目が見られなくなった。

 

 

 

人に愛されるようになるには〈目を見て話す〉のが基本だが、目をそらしているので、嫌われた。そんな状態がずっと続いた。

 

 

 

社会人になっても、何も悪いことをしていないのに、大人しく、人と目を合わせられなかったことから職場で先輩のいじめに遭い、どうして自分ばっかりこんな過酷な日々を送らねばならないのか、といつも疑問に思いながら、作家になることばかり漠然と夢見ていた。

 

 

 

交通事故で障がいを負い、気が遠くなるような根気を要する日々が続いたが、六年におよぶ要介護5の両親のダブル介護のあと、B型就労移行支援事業所で書く仕事をもらい、賃金こそ少ないものの、本当にやりたかった仕事をやっているので、これまでの人生になかった小さな幸せの日々を送っている。

 

 

 

ちなみに現在の職場はいい人ばかりなので、毎日が充実している。

 

 

 

ささやかな幸せだが、これなんか〈第三全盛期〉と言えるのではないか。

 

 

 

幼少のころのかわいさは自分の努力とは関係ないものだったが、いまは自分の足で歩いている。

 

 

 

真の全盛期のような気がする。

 

 

 

そして、若いときにうんと苦労したから、歳をとってから幸せな人生を送れる気がしている。

 

 

 

……て、また長々と自分語りをしてしまった。

 

 

 

お詫びに、この文章を読んでいる人にとって全盛期はいつか? の話をしよう。

 

 

 

あなたにとっての全盛期はいつか?

 

 

 

それはあなたが死ぬとき、走馬灯の内容でわかるのではないだろうか。

 

 

 

若くて元気だったときが輝いていた、と考える人。

 

 

 

東大で首席になってよかった、と思う人。

 

 

 

あのとき、彼女がプロポーズを受けてくれて良かった、と即答する人。

 

 

 

子どもが生まれて良かった、と感慨深げになる人。

 

 

 

成長した子や孫に囲まれて死ねる、いまが最高、という人。

 

 

 

あるいは、何にもない独身の一生だったけれど、たくさんの本や映画に囲まれ充実した人生だった、という人。

 

 

 

死ぬときがくれば、どのときが全盛期だったかわかるに違いない。

 

 

 

© 2025 Daisuke Asaoka

 

 

 

 

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