#51:アナと雪の王子【朝丘 大介】

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アナと雪の王子

 

「隠してるってどういうこと?」

 

 

穴井千春(通称アナ)がたずねた。

 

 

美しい顔はいくぶん訝しげだ。

 

 

ためらいながら、ぼくは答えた。

 

 

「今きみが見ているぼくは、本当のぼくではないんだ」

 

 

「言っている意味がわかんない」

 

 

「だから、つまりその……」

 

 

ぼくは言葉に詰まってしまった。

 

 

白みがかった冬の空。雪がしんしんと降っている。

 

 

見わたすかぎり、まっ白な世界。

 

 

初雪が積もった住宅街の通り道を、ぼくとアナは並んで歩いている。

 

 

すれちがう人はなく、この世界にいるのは、ぼくらだけのようだ。

 

 

アナの口からこぼれる白い息。

 

 

こうして手の届くところにいる

 

 

ああ、愛しのアナ。きみと出会ってから、ぼくは人生最良の日々を送っている。

 

 

だが、もしもきみに本当のことを話したら……。本当のぼくをきみが知ったら、この恋は終わってしまうかもしれない。

 

 

「ダメだ。やはり言えない」

 

 

「そんな……。言いかけておいて、ずるいわ」

 

 

プロのスノーボーダーであるぼくは、世間では〝雪の王子〟の愛称で通っている。

 

 

自分でいうのもなんだが、それなりに甘いマスクだ。

 

 

だが、そんなぼくにも人に言えない秘密がある。

 

 

世の女性をうっとりとさせる、切なく垂らした前髪は偽物。つまり、毛髪はカツラで、じつは若ハゲなのだ。

 

 

五年前、ぼくの脱毛ははじまった。

 

 

ぼくがやっているスノーボードという競技は首がこる。特にぼくの場合、ダイナミックでトリッキーなモーションなので、首のつけ根や肩に負荷がかかり、頭皮にまで血がゆきわたらないのかもしれない。

 

 

元々がイケメンであるぶん、ショックは大きかった。

 

 

さんざん悩んだ末にカツラをつけた。

 

 

つけた翌朝、いつも同じ電車になる女子高生たちが「かわいくなったよね」と言っているのが聞こえた。自意識過剰による勘ちがいか、幻聴かもしれないが……。

 

 

以来、ずっとカツラをつけ続けている。最初はなるべく目立たないように、すこしの毛髪をかぶせるタイプだったが、徐々に毛髪にボリュームのあるタイプに替えていった。メンテナンスの費用はけっこうかかる。

 

 

そうまでして、カツラなんてして意味があるのかというと、これがまんざらでもない。

 

 

スポンサーがつき、地元のスノーボードウェアの会社などから、CM出演の話がたくさんくる。髪がフサフサのときのぼくは最強なのだ。

 

 

ホームタウンの人間が活躍していることは、地元にとって大きな宣伝になるのだろう。

 

 

けっこうな金が入ってくる。

 

 

世間の目はぼくを、スノーボーダーとしてより、ポスターボーイとして見ているようだ。カツラもまんざら役に立っていないわけではないといえる。

 

 

事実、切なく垂らした前髪に心を惹かれた女性から、好意を寄せられることも少なくはない。

 

 

そして、そうした女性のなかに、まだ二十代半ばのアナがいた。

 

 

アナとは去年の冬、スノーボーダーの集まりで知り合い、それ以来、仲間と一緒にグループで練習するようになった。スノーボードに関しては初心者で、ぼくはアナにターンするときのちょっとしたコツなどをコーチした。

 

 

アナは健康的な美人だった。いつも気を配ってくれる彼女に、ぼくは好意をおぼえた。

 

 

男女を問わず誰からも好かれるタイプなので、彼氏がいるかもしれないと思ったが、思いきって告白したら、意外にもあっさりとOKの返事をもらえた。仲間たちからは、うらやましがられた。

 

 

プラトニックな恋愛だが、アナとつきあうようになってから、目に触れるものすべてが明るく見えるようになった。スノーボードの練習にも身が入るようになり、メジャーな大会でも好成績をおさめることができた。

 

 

公私ともに絶好調だった。

 

 

だが、交際が真剣になればなるほど、カツラを隠していることが気にかかった。

 

 

カツラをつけて二枚目づらしている自分を、客観的にながめる意識がでてきたのだ。

 

 

カミングアウトしようか、ひとり悶々と悩んだ――。 

 

 

今、アナはとなりを歩いている。 

 

 

繊細な乙女心は微妙なところで揺れうごいている。カツラをとったら、アナの心は凍りついてしまうかもしれない。そう。氷の彫刻のように。

 

 

アナは哀願するような口調で、

 

 

「ねえ、わたしに隠しごとはやめて。お願いよ」

 

 

「……こわいんだよ」

 

 

「こわいって、何が?」

 

 

「本当のぼくを知ったら、嫌いになるかもしれない」

 

 

「お願い。こわがらないで。ありのままの姿を見せるのよ」

 

 

うるんだアナの瞳を見ていたら、こみ上げてくるものがあった。

 

 

彼女に隠しごとをするのは、もうやめよう。そうだ。いつまでも、このままではダメだ。

 

 

ぼくは決心をかため、アナの正面に立った。

 

 

そして、男らしく、つけていたカツラをはぎとった。

 

 

「これは……」

 

 

アナの目が点になった。

 

 

ひゅるるるる…… 

 

 

ふたりのあいだを冷たい風が吹きぬける。

 

 

あらわになった頭部がすこし寒い。

 

 

アナはしばらくぽかんとした顔つきのまま、ぼくの頭を見たあと、

 

 

「雪だるまかと思った」

 

 

と言った。

 

 

「……いったい、何を隠しているのかと思ったら、そういうことだったのね」

 

 

「幻滅したかい?」

 

 

「ううん。ハゲなんて大したことじゃないでしょ」

 

 

「うん、でも」

 

 

「平気よ、わたしは」

 

 

アナはまったく気にしていないようだった。

 

 

いくぶん拍子抜けしたが、当然といえば、当然の反応かもしれない。アナは人を見た目で判断するような女ではないのだ。

 

 

「正直に話してくれて、ありがとう。本当のことを話してくれて、今までよりも信頼度が上がったよ」

 

 

「……ああ、アナ」

 

 

ありのままのぼくを受け入れてくれた彼女へのありがたみに気づくことで、それまで感じていた引け目を捨てさることができた。

 

 

アナはわざとらしく、まばたきしながら、

 

 

「あっ。まぶしい。初日の出かと思った」

 

 

ぼくの頭を見て、陽気にはしゃいだ。

 

 

ひょうきんな一面を目の当たりにして、つきあって初めてわかりあえた気がした。

 

 

屈託のない明るさ。清濁併せ呑む心の広さ。そしてあたたかな人柄。彼女は最高だ。

 

 

こうしてカツラをカミングアウトした今、髪に未練があるかといえば、もはやこれっぽっちもない。ぼくの興味を引くのはアナというお茶目な恋人であり、切なげに垂らした前髪ではないのだ。

 

 

となりを歩くアナを見ながら、ぼくは思った。今、この瞬間、彼女が好きだという想いをいつまでも大切にしよう、と。

 

 

と、ここでアナが意外な言葉を口にした。

 

 

「ねえ。じつはわたしも、あなたに隠していることがあるの」

 

 

「隠していること?」

 

 

「うん……。ぶっちゃけてもいいかな?」

 

 

「……かまわないけど」

 

 

「じつはわたし、数年前まで男だったの」

 

 

えっ、ええええぇえ!? アナってニューハーフだったのぉ!? 

 

 

まさかのカミングアウトに、自分の耳を疑った。

 

 

だが、言われてみると、腑に落ちるところがあった。上背があり、骨格ががっしりしたアナの体つきは、女性のものというより、男性のそれに近かった。

 

 

いきなりニューハーフと言われて、〈彼女〉として受け入れられるのかと問われると、正直すぐには答えられない。だが、誠意をもって本当のことを打ちあけてくれたのだから、〈信頼のおけるベストフレンド〉としてなら、これまでどおり楽しくやっていけそうな気がした。

 

 

それにしても、なぜぼくらはお互いの秘密をばらしてしまったのだろうか。

 

 

雪のせいだ。

 

 

まっ白な初雪のささやきが……、日常とは異なる白銀の世界が、ふたりの心を素直にしたのだ。お互いに対して抱いていた引け目を取りはらってくれたのだ。

 

 

ぼくはもうしばらく、アナと雪道を歩いていたいと思った。

 

 

©2024 Daisuke Asaoka

 

 

 

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