処女作は恋の香り
学生時代の僕は、作家になるためにいろいろなバイトをした。
ガソリンスタンドの洗車、家庭教師、プールの監視員、引っ越し屋etc.
中でも良かった仕事が、妙蓮寺にあるケンタッキーフライドチキンの厨房での仕事だった。
バイトの内容は、店の裏側にある厨房でフライドチキンの調理をすること。
巨大な冷蔵庫に入り、冷凍チキンのピースをとりだす。
ドラム、ウイング、サイ、フィレ、キール。五つに分断された肉片の皮を伸ばし、臓物をとりのぞき、あるいは太い骨の関節をはずす。
これに特製スパイスをまぶして揚げるのである。
できあがったチキンはキャビネットにのせて、熱々のトレーに入れる。
単調な作業だが、香ばしい鶏肉の匂いがたちこめている厨房で、黙々とチキンと向きあうのは、なぜだか性に合っていた。
これは男性スタッフの仕事で、女性スタッフたちはカウンターで接客したり、コールスローサラダを作ったりする。時々厨房に顔をのぞかせ、追加チキンの注文をしてくる。
その中にひとり、気になる娘がいた。
赤い髪のかわいい娘だった。
「チキンをもう二十ピース、お願いします」
「かしこまりました」
はじめのうちは事務的なやりとり以外、会話はなかった。知っていることといえば、彼女の名前がYさんということぐらいだ。
バイトには週に四、五回入っていたが、Yさんと同じシフトになるのは、週にニ回ぐらいだった。
見た目こそヤンキーであれ、Yさんはけっして悪い娘ではなかった。
仕事をあがるときに、お先に失礼します、と深々と頭を下げておじぎをするところや、心をこめて「ありがとう」言っている様子から、礼儀正しさを感じとることができた。
やりとりは単調で、たいして盛り上がることはなかった。それでも気にならなかったのは、話すときの「間」や、ふたりののんびりしたトーンが似ていて、お互いに自然体でいられたせいかもしれない。
一度心をひらいたYさんは、なかなかの面白い娘だった。
うれしそうに夢を語るYさんのかわいい笑顔を見ていると、僕もまたうれしくなった。
また、話しているうちに、Yさんが安田成美、中森明菜W主演のドラマ『素顔のままで』を毎週見ていることや、髪を赤く染めているのは、海外のポップシンガーに憧れてのことだということが判明した。
そういうことがわかってくると、だんだんと僕も彼女には自分を包み隠さずにさらけだすようになった。学校の連中に話したら馬鹿にされるであろう〝一発屋〟と呼ばれるミュージシャンの非凡さなどについても、熱を込めて話した。Yさんは笑うでもなく、まじめに受けとめてくれた。
時には相槌を打ち、時には小首をかしげ、
「へえー。世の中にはそんなふうに考えている人もいるんだ」
まるで新しい発見をした子どものように、目をまんまるにして感心してくれた。
夏が過ぎ、秋になった。
その日は夕方からはげしい雨が降りはじめ、お客が少なかった。
閉店十分前になり、モップで厨房の床を拭いているときだ。
余ったフライドチキンを箱に詰めて、Yさんがやってきた。
「お先に失礼します」
「お疲れさまでした」
Yさんは、深々とおじぎして、カウンターのほうへ一旦消えた。
が、ふたたび仕切りの陰からひょこっと顔をのぞかせ、
「愛してますから」
投げキッスをして、更衣室あるニ階へ上がっていった。
僕はぽかんとしたまま、その場に立ちつくした。恋の告白だったのか、ふざけただけなのか、判断がつかなかった。
もしかしたら、あの娘とつきあうことになるのかな。モップで床を拭きながら、Yさんと野毛山動物園で象を眺めたり、有楽町の日劇で映画を観ることを夢想した。
「朝丘さん」
数日後、厨房でチキンの調理をしていると、女性スタッフに呼びとめられた。
Mというジャイ子のような顔をした女だった。プライドが高い利かん気で、いつもYさんとカウンターで接客にあたっていた。
ぼくに歩みよるなり「Y」と言った。
「つき合っているでしょ、Yと」
「え!?」
突然の問いに何と答えたものかとどぎまぎしていると、Mは眉をひそめ、こう言った。
「やめたほうがいいよ。あの娘、昔クラスで評判悪かったから」
「ふうん、悪かったんだ。どんなふうに?」
Mは目を逸らして口ごもった。
「それは私の口からは言えないわ。とにかく、やめたほうがいいよ、あの娘は」
一方的に物言いをつけ、その場を去っていった。
僕は、Yさんの赤い髪や、うれしそうに夢を語る幼な顔を思い浮かべながら思った。
――いいじゃないか、昔の評判なんて。いつも話しているYさんが僕の中のYさんだ。
僕はチキンをオーブンに入れながら、そのままMの言葉を流した。
数日後、あまりにも唐突なお別れが訪れるとも知らずに。
翌週、バイトのシフトで、Yさんと一緒になった。
「愛してますから」
この前、Yさんにそう言われていたせいで、僕は舞い上がっていた。
つとめて平静を装いながら、彼女に話しかけた。
「渋谷の109の交差点って、ニューヨークのタイムズスクエアに似ているよね」
「……うん」
いつもなら、こういう話をふるとYさんは乗ってくるのだが、この日は生返事だった。
顔をうつむかせたまま、口を堅く閉ざしている。
僕は何とか面白い話題を見つけようとした。
Yさんは反応しなかった。
思いつめたような顔で僕を見て、口をひらいた。
「……そんなふうに思われていたんだ」
消え入りそうな、小さな声だった。
――そんなふう?
僕は声を呑んだ。彼女が何を言おうとしているのか、わからなかった。
どんな言葉でも埋められそうにない重い沈黙。はただただワイン色に染まったYさんの髪を見つめた。
Yさんは僕に歩みよると、こちょこちょ。脇の下をくすぐった。そして、下からのぞき込むようにして、にっ。眉毛をハの字にして、笑ってみせた。とにかく笑うしかない。泣いているのか、笑っているのか、わからないような、やるせない笑顔だった。
Yさんは淋しそうな顔で小走りに厨房を出、そのまま店外の雑踏のなかへ消えていった――。
それっきりYさんはバイトに来なくなった。一週間がたっても、二週間がたっても。
僕は毎日厨房でYさんのことを思い浮かべながら、彼女が来るのを待った。あの日、Yさんが見せた、どうにもやるせない笑顔。なぜあんなにも淋しげな顔を見せたのか。何が原因で
こんなことになったのか。あれこれ想像をめぐらせて、Yさん気持ちを読みとこうとしたが、考えれば考えるほど、混乱した。
だが、真相はすぐにわかった。思ってもみない人物によって。
Mだ。
Mは調理をしている僕に、追加のチキンをオーダーすると、悪びれた様子もなくこう言った。
「そうそう。この間、Yに会ったとき、言っておいてあげたよ。朝丘さんは、あんたみたいなのにつきまとわれて迷惑してるよ、って」
――なぜそんな余計なことを!?
僕は、この女をぶん殴りたくなった。
同時に、あのときYさんが厨房でつぶやいた言葉や、やるせない笑顔の意味を理解した。
おそらく恋愛ごとと縁がないであろうMには、元クラスメイトが男性スタッフにモテていることが許せなかったのだろう。どうしてそんな醜いことができるのか、僕には信じられなかった。
それ以来、僕はMと一切口をきかず、毎日、Yさんが厨房に顔をだすのを待った。
だが、Yさんはそれからバイトに来なくなってしまった。どれだけ待っても、出勤のシフト表に〈Y〉の名前を目にすることはなかった。いまにして思えば、こちらから積極的にコンタクトをとればよかったのだが、当時の僕は、Mや店長に、Yさんの連絡先を教えてもらう気にはどうしてもなれなかった。
そして半年後、僕もバイトを辞めた。僕のことでYさんが来なくなってしまったのに、僕だけが続けるわけにはいかなかった。
彼女の敵(かたき)を取りたい。
そうした動機で小説を書いた。
それが処女作だった。
電車から見えるケンタッキー。赤い髪の幻影が、いまでも店内に残っている。
Yさんはいま、あのとき目をきらめかせて話していた未来を歩んでいるのだろうか。
僕はこいねがう。
Yさんが、幸せいっぱいで瞳をきらめかせる毎日を送っていることを――。
©2025 Daisuke Asaoka
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